この記事を書いたわけ
この記事は、ZINEをすでに作っている方、作ることに興味がある方、イベントにも足を運んだことはあるけれど、出展はまだという方に向けて書いています。なぜ出展するのかは人それぞれだと思うので、ここでは触れません。わたし自身の初出展を、失敗も含めて、できるだけそのままの温度感でお伝えします。

出展を決めた理由:インプットばかりの自分に、締め切りをつくるため
7月1日に、8月開催のZINEフェス文芸へ申し込みました。この時点で、出展時に販売できるZINEは1冊もありませんでした。過去に作ったZINEは20作品近くありましたが、すべて友人・知人向けの非売品だったからです。
では、売るものがないのになぜ申し込んだのか。目的は、作品を世に出すこと、つまりアウトプットを出すことでした。当時のわたしは、インプットばかりが続いていました。クリエイターを名乗るなら、きちんとしたアウトプットを出さなければいけない。そう思いながら動けずにいる自分に、もどかしさを感じていたのです。
そこで一念発起して、座右の銘のひとつである「作品を完成させる秘訣は締め切り」に背中を押してもらうことにしました。イベントへの出展申し込みという形で、自分に締め切りを課したのです。いわば背水の陣です。
出展料は税込5,800円でした。同じ時期に、9月のZINEフェス東京にも申し込んでいます(告知あり協力プランで5,200円)。こちらは話がぶれるので、次回の記事に回します。
「まだ1ヶ月ある」は甘かった
申し込んだ時点では、「まだ1ヶ月もあるし、ZINEはこれまで何冊も作ってきたのだから、作業時間は余裕だろう」と思っていました。ところが、とんでもありませんでした。
結果的に、当日は新作ZINE4作品を持って出展できました。ただ、さまざまな予定に追われて、印刷物が納品されたのはイベント前日です。しかもわたしのZINEは「ワンシートZINE」、つまり1枚の紙を折って8ページの小冊子にするタイプです。受け取ってから、半分徹夜で紙を折り続けました。
あまりにギリギリで、当日のブースのことまで考えが回りませんでした。幸い、手帳に落書き程度ですがブースのラフを描いてあったので、そのイメージに合わせて設営はしました。それでも、肝心の「これは何であるか」が伝わらないブースになったと、振り返って猛省しています。
当日朝、ふと思い立って作ったフリーペーパー
当日は、運営からのメールで「9時10分集合枠」と案内されていました。ルートは事前に調べてあったので、最寄りの浜松町駅には時間に余裕をもって到着しました。ただ、そのまま会場へは向かわず、駅近くのコンビニに駆け込みました。フリーペーパーを大量にコピーするためです。
前日まで頒布用のZINEを折り続けていたわたしは、朝6時に起きてふと思ったのです。「来場者に声をかけるとき、何もないよりは、何かあったほうがいいな」と。そこで、過去に書いたZINEからネタをいくつか拾い、新規要素をできるだけ減らして再構成し、1時間でフリーペーパーを作りました。
100枚印刷するつもりでしたが、A3両面コピーは1枚あたり十数秒かかります。集合時間が迫っていたため、印刷できたのは50枚でした。
会場に到着、出展者みんなで行う設営
集合の9時10分ギリギリに到着し、ほかの出展者の姿を見てほっとしました。ほどなく運営スタッフがマイクで「お待たせしました、9時10分集合の方、会場にお入りください」と呼びかけ、設営が始まりました。

まだ何もない、床がピカピカに見える会場に、出展者同士で協力してテーブルと椅子を並べていきます。置き場所にはすでに目印がつけてあり、スタッフの説明も分かりやすかったため、20〜30分で終わりました。その後、各自が自分のブースへ行って整えます。

ブースづくりは5分、準備全体には3時間かかった
わたしのブースは実に簡素でした。ほかのブースにはポスターが掲げられ、テーブルクロスが敷かれ、雛壇のようなスタンドで本が見栄えよく並べられています。それに比べて、自分のブースはやる気がなさそうに見えてしまいました。大きなスチレンボードに書けた言葉も、「ZINEフェス初出展」の一言だけでした。

しかもこの時点で、頒布用のワンシートZINEは折り終わっていませんでした。朝にコンビニで刷ったフリーペーパーもワンシートZINE形式だったので、紙を切ったり折ったりする作業に追われ、すべてが出来上がったのは、11時の開始から3時間後の14時ごろです。ブースの設営自体は5分で終わっても、準備全体にはこれだけの時間がかかりました(写真はわたし視点。出展ブースの裏側は作業場と化していました)。

それでも、できたてのフリーペーパーを配り、各ZINEを最低3冊ずつ並べて、最低限の在庫は確保していました。
80部持参して14部。用意すべき数は「5部」だった
振り返ると、4作品を各20部、合計80部持参して、頒布できたのは14部でした。ネットでは、無名の初出展で売れるのは20〜30部ほどとよく言われています。それなら、準備が万全でなかったとはいえ、1作品につき5部ほど用意しておけば足りたことになります。
その分の時間は、11時の開始から来場者や周囲の出展者とのコミュニケーションに使うべきでした。そう後悔しています。
教訓は「余裕をもった制作進行と、余裕のある当日準備」です。ZINEフェスは開始前にほかのブースを回れますし、購入もできます。わたしのように、当日に会場で頒布物の仕込みをして、会場を回れなくなることがないようにしてください。
開場から3時間後に、最初の1冊が売れた
最初の1冊が売れたのは、11時の開場から3時間後の14時です。
その間、わたしは必死に紙を折っていました。近くのブースには、開場から5分もしないうちに1冊、また1冊と売れていきます。作業をしながら見ていると、購入していたのはファンの方々でした。イベント後にいただいた名刺からSNSを見てみると、フォロワー数がすごいのです。
ファンの方だけでなく、会場で初めて見かけたであろう方も購入されていました。最初の挨拶で「ZINEフェスは初めてなんです」と言い合ったのが、うそのように感じるほどです。初出展で飛ぶように売れるとは思っていませんでしたが、近くで人が絶えず訪れるブースを見ていると、焦りが募ったのは否めません。
ただ、そこで改めて思い出したことがあります。目的は何だったのか。売れた数は結果にすぎません。わたしはZINEに限らず、自分が作るモノやサービスが誰かの心の糧になれば本望だと思っています。リアルイベントで誰も手に取らなければ、それは求められていなかったという結果です。一人でも手に取ってもらえて、それが心の糧になったなら、それで十分なのです。
ついに1冊。そして出会った人たち
そんなことを考えていた14時ごろ、ついに1冊が売れました。
ブースの前を通りかかった方に「フリーペーパーいかがですか」と声をかけたところ、その方は試し読み用のZINEを手に取り、熱心に読んでくれました。邪魔にならない範囲で、ワンシートZINEの形式であること、両面印刷なので裏返すとさらに内容が書いてあることをお伝えしました。すると「へぇ〜」という返事のあと、「じゃあこれ、1冊お願いします」と言ってもらえたのです。
努めて冷静に「300円です」と答えましたが、うれしさのあまり、隣のブースの方に「ついに、初めて、お一人ご購入いただきました♪」と報告してしまいました。購入してくれた方がまだすぐ近くにいたので、聞こえていたかもしれません。はずかしいですね。
その後も、通りがかる方に声をかけ続けました。試し読みしている方には「気になるものがあれば、遠慮なく手に取ってください」と声をかけます。ZINEのタイトルを読み上げて、「食後のお皿はいつ洗えばいいのか……。わかるわ〜」と共感してくれる方もいました。
十数人の方に「ZINEのイベントはよく来るんですか?」と聞いてみたところ、ほとんどが「初めて」という答えでした。「小説を作っていて文学フリマには出展していますが、ZINEは初めてです」という方もいました。
台北からZINEフェスを見に来たという方には、「台湾でもZINEは流行っていますよ」と教えてもらい、Taipei Art Book Fairをおすすめされました。その方は「ラーメンは、入り口にすぎない」を1冊買ってくださり、うれしかったです。
忘れられない、ある家族との会話
特に忘れられないのが、ZINEフェスは初めてという四人家族です。一度立ち読みをして、いったんブースを離れましたが、数十分後に再び立ち寄ってくれました。奥様が「どうしても気になって……どれか1冊、買っていきます」と、4冊の中からじっくり選んで購入されたのです。お子様はおそらく小学生と幼稚園児くらいでした。ゆっくり会場を回れなかったであろう中で、二度も立ち寄って購入してくださったことには、感謝しかありません。
忘れられない理由は、もう一つあります。4冊のうち「食後のお皿はいつ洗えばいいのか?」を家族で見ているときに、わたしが「いつだと思いますか?」と尋ねました。すると幼稚園くらいのお子様が「たべたら、すぐ〜」と答えたのです。わたしは感動して「そう! そのとおり」と言いました。その直後、お母様がひとこと、「本当は、すぐやるのがいいんだけれどね〜」。
実はこのZINEは、「食後のお皿をすぐ洗うように、やりたいことはすぐにやれ」という主張の本でした。それでも、「大人の事情」がそう簡単にはやらせてくれないという現実があります。
けれども、やらなければ、やらなかった後悔が残るだけです。この出展レポートも、出展から2ヶ月以上たって、ようやく書くことができました。「大人の事情」でほかにやるべきことが溜まり、食後のお皿ならぬ記事が長いあいだ片づきませんでした。それでも諦めなかったので、こうして公開できた達成感はひとしおです。
14冊の内訳と、気になる収支
最後に、14冊がどう売れたのか、そして収支がどうなったのかをお話しします。
まず内訳です。単品(1冊300円)が6冊、4作品セット(1,000円)が2組で8冊、合計14冊でした。
身も蓋もない話ですが、会場を回れなかったわたしは、自分のブースから見える範囲で気になったブースの頒布物を購入しました。すると、購入した相手の方が「わたしも買わせてください」と、お返しに買ってくださったのです。その2組の方がセットを買ってくださったので、今回の購入者の顔は、あと半年くらいなら全員覚えていられそうです。
つぎに、収支を公開します(金額はすべて税込です)。
【売上】
・単品:300円 × 6冊 = 1,800円
・4作品セット:1,000円 × 2組 = 2,000円
・売上合計:3,800円
【費用】
・ZINEの印刷代:約100円 × 80部 = 約8,000円
(A3の厚手の用紙、両面印刷で片面カラー)
・出展料:5,800円
・フリーペーパー:20円 × 50枚 = 1,000円
(コンビニで両面モノクロ印刷)
・費用合計:約14,800円
【収支】
・3,800円 − 14,800円 = 約マイナス11,000円
交通費は上の計算に含めていないので、実際の赤字はもう少し大きくなります。
なお、当然ですが、素材集めや執筆、制作にかかった時間を工数(人月)や時給に換算した金額は、上の費用に含まれていません。また、わたしの場合はワンシートZINEにするために、紙を切ったり折ったりする作業が1冊あたりおよそ1分かかります。これらも本来は費用としてかかっているものです。
ここで、先ほどの「5部で足りた」話に戻ります。もし1作品5部ずつ、合計20部だけ印刷していたら、印刷代は約2,000円です。単純計算ですが、費用合計は約8,800円、赤字は約5,000円で済んでいました。
もちろん、売れ残った分がすべて無駄になるわけではありません。次回以降にもイベント出展の予定があるなら、そこで販売すればよいからです。それを見越して、最初から多めに作っておくという考え方もあります。
ただし、その場合でも本質は変わりません。売れる数を見誤ると、売れ残りは在庫としていつまでも残り続けます。次の出展で売れる保証はなく、保管する場所や手間もかかります。部数は「今回売り切る数」と「次回以降に回す数」に分けて考えておくのがよさそうです。
赤字でも、経験としては大きな収穫でした
それでも、わたしにとってこのイベントは大きな経験になりました。8月のZINEフェス文芸、9月のZINEフェス東京、11月の文学フリマ43という一連の計画の中で、ZINEフェス文芸は即売会に慣れておくための出展だったからです。準備が大幅に間に合わなかったのは想定外でしたが、ブースの見せ方や、何を用意すべきか(逆に、用意しなくていいものは何か)が整理できました。
出展を検討している方へ、たった一つのアドバイス
出展を検討しているZINE制作者の方に、アドバイスを1つだけ送るなら、「申し込んでから、あとのことを考える」です。1ヶ月、半月もあれば、コピー本なら1冊からでも作れます。最低限の体裁が整っていれば十分で、肝心なのは中身です。
自分が好きなものを形にして、それを求めているどこかの誰かが、会場で手に取ってくれる場面を想像してください。そして、まずは最初の一歩を踏み出してしまうのがいいと思います。
関連リンク・参考記事
※初出展の方のnote:ZINEフェス文芸の日のこと
※複数回出展している方のnote:ZINEフェス文芸出店レポ
台北からの来場者に教えてもらったイベント:草率季 Taipei Art Book Fair 公式Instagram(フォロワー5.7万人)
※紹介記事:「草率季:台北アートブックフェア10周年」(岩切澪 | 台北在住アートライター)
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